ここ数年、歌のトレーニングをしている人の間でミックスボイスはとても注目を集めています。今や、やり方は分からなくても「名前は知ってる」って人も多いのではないでしょうか。
一方で「ミックスボイスは難しい」「練習してみたけどイマイチできた感じがしない」といった声もよく聴きます。
そこで今回は、ミックスボイスの基本的な説明からミックスボイスを出すための具体的な手順までを詳しく解説していきます。
今までミックスボイスの練習でつまづいた人はもちろん、これからミックスボイスについて知りたい人にも理解できて、実践できる内容になっているので、ぜひご覧ください。
ミックスボイスとは
ミックスボイスは私たちが普段使っている『地声』『裏声』に続く第三の声で、地声じゃ届かない高音域を、裏声ではなく地声のような太い声で出す発声のことです。
そして、この特徴こそが多くの人がミックスボイスを出したいと思う理由でもあります。
ミックスボイスの特徴
音域が格段に上がる
ミックスボイスの一番の特徴は、歌える音域に一気に幅を出せることです。これまで私がボイストレーニングを教えてきた統計でいうと、平均して半オクターブは音域が上がる人が多いです。
なので、「高い声で歌いたいけど、裏声になっちゃうよ」といった高いキーを出す時に、ミックスボイスなら地声のような声質のまま出すことができます。
声が通りやすい
ミックスボイスは『抜けのいい声』と言われていて、大音量のバンドサウンドやBGMの中でも声が埋もれにくく、聴き手に声が届きやすくなります。
喉を痛めにくい
地声で無理やり高音を出そうとすると喉が疲れたりイガイガしてしまいますが、ミックスボイスなら声を張り上げる必要がないので喉を痛めにくくなります。
無機質な声になる
ミックスボイスの声はどこか機械っぽい感じになります。なので、もし感情を入れているように聴かせる場合は、地声で出す方が聴き手に伝わります。
ミックスボイスの種類
ミックスボイスはさらに2つに分類できます。それが『ミドルボイス』と『ヘッドボイス』です。
詳しくはあとで説明しますが、よくミックスボイスは「地声と裏声が混ざっている声」と言われます。それは、ミックスボイスには『地声の要素』と『裏声の要素』が文字通りミックスされているからです。そして、この『地声の要素』と『裏声の要素』の混ざっている割合によってミドルボイスかヘッドボイスかに分かれます。
ミドルボイスの特徴
ミドルボイスは『地声の要素』を多く、『裏声の要素』を少ない割合で出したミックスボイスのことです。『地声の要素』が多いため、ヘッドボイスに比べて、地声に負けないくらいの太い声で高音を出せます。その分、ヘッドボイスよりは高音域は伸びにくい発声です。
ミドルボイスはその特徴を生かして、高音域かつ迫力を出したい部分に適しています。なので、下で紹介している具体例のように特にサビの部分で使われることが多くなります。
ミドルボイスの具体例
サカナクション/アイデンティティ
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サビの「♪どうして〜」の「て〜」がミドルボイスです。前後の声と聴き比べてみると分かりやすいと思います。
ポルノグラフィティ/サウダージ
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聴き分けが難しいですが、「♪あなたの」の「たの」、「♪そばでは」の「では」がミドルボイスです。
その後の「♪よぞらを」の「らを」、「♪こがして」の「して」もミドルボイスになっていて、こちらの方が分かりやすいかもしれません。
藍井エイル/ラピスラズリ
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「♪夜空を舞う」の「舞う」がミドルボイスになります。特に分かりやすいのはサビの最後の「♪ああこの夢が果てるまで」の「が果てるまで」の部分です。
ヘッドボイスの特徴
一方、ヘッドボイスは『裏声の要素』を多く、『地声の要素』を少ない割合で出したミックスボイスのことです。『裏声の要素』が多いためミドルボイスよりも、より高音域を出すことができます。その分、地声っぽさはそこまで強くなく、裏声よりは芯がある感じの声になります。
ヘッドボイスは高音域を張りあげずに透明感のある声で歌いたい時に適しています。下で紹介している具体例のように、まさに伸びやかな声というのがぴったりな発声方法です。
ヘッドボイスの具体例
平井堅/いてもたっても
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この曲のサビはほぼ、ヘッドボイスになっています。よく「平井堅さんは裏声(ファルセット)じゃない?」って声を聴きますが、実はとても綺麗なヘッドボイスなんです。逆にこの曲の場合、サビの「♪いてもたっても」の部分は裏声(ファルセット)になっています。
EXILE/Lovers Again
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全体を通してヘッドボイスがたくさん登場するのですが、特にサビはほとんどヘッドボイスです。
例えば、1番のサビの部分。
ひとりでは 愛してる証さえ曖昧でせつないだけ
ふたりでは やさしく見守ること続けられない…
もう一度会いたいと願うのは 痛みさえいとしいから
ときめきを失くした永遠より 熱い刹那を
曲:Lovers Again/歌:EXILE/作詞:Kiyoshi Matsuo/作曲:Jin Nakamura
1行目の「♪せつないだけ」の「せつ」、3行目「♪いとしいから」の「いと」の2箇所は裏声。
2行目の「♪続けられない」4行目の「♪熱い刹那を」の2箇所は地声。
他にも細かく言うと一瞬地声に戻ってたりしますが、残りの歌詞は全てヘッドボイスになります。
[box class=”box27″ title=”ちなみに”]上記の通りこのサイトでは、ミドルボイスとヘッドボイスはミックスボイスの1つとして定義して、それを元にした解説や練習方法を紹介しています。これは、普段私がボイストレーニングで教えている流れであることと、この流れで実際に多くの人がミックスボイスを習得しているからです。
ただミックスボイスについては「ミックスボイスとミドルボイスは別」「ヘッドボイスは裏声の一つ」など、人によって考え方や教え方が違う場合があります。なので「ミックスボイスを出す」という目的は同じでも、人によって解釈やアプローチが違うんだな、と覚えてもらえればと思います。[/box]
ミックスボイスは一つの目標
さて、ここまで紹介したようにミックスボイスが使えると、これまで「キーが出ない」と諦めていた曲も歌いきれるようになります。使える音域に幅が出て歌の表現力も上がるので、周りの人からも「そんな高い声出るんだ!」「この人、歌上手いな」と思ってもらいやすい技術とも言えるでしょう。
また近年はプロのアーティスト、特に男性でミックスボイスを使った高音ボーカルの人も多く、人気があります。それもあってか「自分もあんな声出したい」「ミックスボイスを出すのが目標」という人も増えています。
ミックスボイスを出すのに必要な4つの手順
それではここから、ミックスボイスを出すにはどうしたらいいのかを具体的に解説していきます。
ただ、先に言っておくとミックスボイスは誰でも今すぐ出せる声ではありません。ミックスボイスを出すためには、出し方の練習を始めるまでのステップをしっかり踏んでいくことが大切です。それが、
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- STEP1:ミックスボイスの3つの前提知識を知ろう
- STEP2:ミックスボイスを出すための4つのトレーニングをやろう
- STEP3:ミックスボイスの感覚を覚えよう
- STEP4:ミックスボイス(ミドルボイス・ヘッドボイス)を練習しよう
[/list]
の4つです。この準備ができていなかったり、不十分なのを知らないせいで「なかなか出せないな、難しいな」と感じて諦めてしまう人も多いのです。一つひとつ解説します。
STEP1:ミックスボイスの3つの前提を知ろう
まずは、ミックスボイスを出すに当たって前提知識を頭に入れておきましょう。それが、
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- ミックスボイスは2つの筋肉を動かす
- ミックスボイスには筋力が必要
- ミックスボイスを使いこなすには時間がかかる
[/list]
の3つになります。
1:ミックスボイスは2つの筋肉を動かす
声を出すためには必ず筋肉を動かす必要があります。そしてミックスボイスの場合は2つの筋肉を動かします。それが声帯閉鎖筋[せいたいへいさきん]と輪状甲状筋[りんじょうこうじょうきん]と呼ばれる筋肉です。
声帯閉鎖筋は地声の発声で動かす筋肉
そもそも声というのは、声帯が閉じて、そこに息が当たった振動によって出ています。この時、声帯の開閉のために使う筋肉たちをまとめて声帯閉鎖筋と言います。この声帯閉鎖筋が動いて出る声が地声になります。これは、ミドルボイスとヘッドボイスの説明のところで紹介した『地声の要素』に当たる筋肉です。
輪状甲状筋は裏声の発声で動かす筋肉
一方で裏声を出す時には声帯閉鎖筋の一部が緊張して動かなくなります。その代わり、声帯の下にある輪状甲状筋という筋肉が下に引っ張られます。この時に出る声が裏声になります。こちらは『裏声の要素』に当たる筋肉です。
ミックスボイスは声帯閉鎖筋と輪状甲状筋を同時に動かす
そして、ミックスボイスの場合は声帯閉鎖筋と輪状甲状筋の両方を動かします。高音域を出していくと自然に裏声になりますが、そこを声帯閉鎖筋で閉じながら太く高い声を出していくことでミックスボイスになるんです。まさに「地声と裏声が混ざった声」ですね。
そしてもうお分かりのように、同じミックスボイスでもミドルボイスとヘッドボイスとでは声帯閉鎖筋と輪状甲状筋を動かすバランスが違っているんです。
2:ミックスボイスには筋力が必要
よく「ミックスボイスは難しい」と言われます。実際のところミックスボイスの出し方を正しく練習していても、すぐに歌に活かせる人はほとんどいません。
なぜなら、ミックスボイスは正しい出し方はもちろんですが、何よりその発声に応えられるだけの筋力が必要だからです。
さっき紹介した声帯閉鎖筋と輪状甲状筋の2つの筋肉を鍛えることがそれに当たります。
この2つの筋力が弱い状態のミックスボイスは、実践で使うにはクオリティが低くイメージするような声が出ません。ミックスボイスが出ずに悩んでいる人に多いのは、筋力が足りないことに気づけず「なんか変な声だなあ、やり方が違うのかな」となり、出し方のコツばかりあれこれ試してしまうことです。
「この声、変・・」でやめてしまっては、いつまでたってもミックスボイスは習得できません。大切なのは一つの練習を続けながら、根気強く筋力を鍛える身体作りをしていくことです。
3:ミックスボイスを使いこなすには時間がかかる
さっきの説明の通り、ミックスボイスを出すには筋力トレーニングが欠かせません。
しかしほとんどの場合、声帯閉鎖筋も輪状甲状筋も今まで鍛えるどころか、今回初めて聞いた人ばかりだと思います。これまで意識してこなかった筋肉を鍛えるわけなので、十分な筋力をつけるにはどうしても時間が必要です。
個人差はもちろんありますが、私が今までボイストレーニングを行なってきた人の統計でいうと、ミックスボイスが出るようになるまで半年、歌で活かせるのに1年ほど。さらに、しっかりと地声と比べても違和感なく使えるまでにはトレーニングを始めてから3〜5年くらいかかります。(私自身も3年は必要でした。)
なかなか長い道のりで嫌になりますね。ただ、これは今まで筋トレをしたことない細身の人が、いきなりボディビルダーにはなれないのと同じようなものです。
こればっかりは人と比べても仕方ない部分です。時間がかかることを頭に入れた上で、焦らずしっかりトレーニングを続けていくことが大切です。
STEP2:ミックスボイスを出すための4つのトレーニングをやろう
STEP1で前提知識を頭に入れたら、次は実際にトレーニングを行なっていきましょう。ミックスボイスを出すための身体作りがこのステップの目的です。必要なトレーニングは以下の4つになります。
1:腹式呼吸を身につける
ミックスボイスを出すには発声が力まないことが大切です。腹式呼吸は体がリラックスした状態で呼吸ができるのでミックスボイスに最適です。
2:声帯閉鎖筋を鍛える
地声の発声に使うこの筋肉が鍛えられていないと、ミックスボイスはまず出ません。ミックスボイスを出す上では一番重要になります。
3:輪状甲状筋を鍛える
裏声の発声に使うこの筋肉もしっかり鍛えましょう。
4:高音域の発声を身につける
鼻腔の響きがミックスボイスの感覚を掴むのに役立ちます。また、地声の高音域が綺麗に出るようになると、自然とミックスボイスが出てくる人も多いです。
STEP3:ミックスボイスの感覚を覚えよう
すでに説明しましたが、ミックスボイスを使いこなすまでにはどうしても時間がかかります。だからといって「ミックスボイスってこの声の感じで合ってるのかな?」というのが分からないまま練習をし続けるのは怖いものです。
そこで、ミックスボイスに必要な身体作りを行えてきたら、次にミックスボイスを出した時の声の感覚を身体で覚えましょう。そのためのやり方は以下の記事で解説しています。
[kanren id=”657″ target=”_blank”]
このステップをはさむことで「あの感覚を目標にすればいいんだな」という基準を持ってミックスボイスの練習に臨むことができます。
STEP4:ミックスボイス(ミドルボイス・ヘッドボイス)を練習しよう
最後はいよいよミックスボイスの出し方を知って練習していくステップです。
最初に紹介したように、ミックスボイスにはミドルボイスとヘッドボイスの2つがあります。それぞれ練習内容が違うので、自分が身につけたい方から練習していきましょう。詳しい練習内容についてはそれぞれ以下の記事で解説しています。
[kanren id=”2282″ target=”_blank”]
[kanren id=”2312″ target=”_blank”]
まとめ
いかがだったでしょうか。
説明も長くてやることも多いため、面倒に感じたかもしれません。一見遠回りに見えるかもしれませんが、ここで紹介した手順に沿って一個一個トレーニングを積み重ねることが、ミックスボイスを身につける1番の近道です。
ミックスボイスは一度身につけてしまえば忘れることはないですし、周りの人と差をつける大きな武器になります。
長い目で見ながら、焦らずじっくり日々のトレーニングに励んでいきましょう。